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はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!

10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4

16 先輩への手紙 5


17 先輩への手紙 6

18 先輩への手紙 7

19 先輩への手紙 8

あとがき

 どんなことでも、先輩に何かを頼まれるのが、僕はいつもうれしかった。 

 「任せたわよ。」って、最初のうちは、それでも、目を離さないで気配りをしてくれていましたね。 

 それが、だんだん、本当に任せきりにしてくれ、「どう?」って出来上がりを確認して、「ありがとう、いいね!」って。 

 うれしかった。ほんとうに、うれしかったです。 

 先輩の「ありがとう、いいね!」は、いつも魔法の言葉でした。
 

 

 先輩の気配りや、僕のためを思ってくれていたいろいろなことに、僕はずっと、ぜんぜん気付いていなかったと思います。 

 だけど、もう、気付きましたよ。たぶん。全部ではないかもしれないけど。 

 僕が任された仕事を安心してやってこれたのは、後ろに先輩がいてくれたからです。 

 海外赴任の準備を進められたのも、先輩がいたからです。 

 どれもこれも、自分ひとりの力ではなかった。 

 僕ひとりでは、まだまだ未熟で、大したことはできないんです。 

 

 その証拠に、先輩が任せてくれた仕事は、先輩がやってもよかった仕事ばかりです。 

 僕はとうとう、先輩が抱えきれなくなったことや、うまくできなかったことを肩代わりすることができませんでした。 

 先輩がほかの人に「お願い、助けて!」と相談を持ちかける様子を隣で見ながら、僕はいつもすごくさみしくて、がっかりで、落ち込んでいました。 

 わかっています。最初からそんなことは無理ですよね。 

 でも、そんなふうに頼りにされてみたかったと思います。 

 今が無理なら、いつか、なりたいと思う。 

 

 どうしたらいいのか、僕は一生懸命考えました。 

 考えたけど、よくわからないので、ある日、とりあえず、先輩がすることを真似してみることにしました。 

 次の予定に移る時。みんなと食事をする時。 

 一日中、先輩がいつもするようなことを、先輩がする前にしてみようと思いました。 

 驚きました。 

 今するべきことをしながら、どれだけ先のことを意識しているか。 

 周りの人たちの様子を、どれだけ細かく見ているか。 

 あんなに意識していたのに、それでも先輩の手のほうが、何度も僕より先に動きましたね。 

 今までの僕は何だったのだろう?と思いました。 

 耳が5人分くらいついていて、目が10人分くらいなければ、あんなふうにはできないのではないかと思います。 

 それを、先輩はにこにこ笑いながら、普通にやっていたんですね。 

 これができるようになれば、先輩みたいにいろいろな人から頼りにされ、いろんな仕事をこなして、後輩の指導もできる人になれるんだなと思いました。 

 先輩は、僕の目指す世界です。