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はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!

10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4

16 先輩への手紙 5

17 先輩への手紙 6

18 先輩への手紙 7


19 先輩への手紙 8

あとがき

 長くなったこの手紙を、僕は何度も読み直しました。 

 先輩と一緒にした、いろんなことを思い出して、すごく懐かしくなりました。 

 たった1年間のことなのに、もうずっと、生まれたときから一緒にいるような気がします。 

 それどころか、生まれる前から、先輩と一緒にいたような気だってするんです。 

 

 僕は、僕の手紙を読んでいて、自分の言い訳に気付きました。 

 先輩が僕を叱るのは、いつも決まって、僕が言い訳をしたときでしたね。 

 「言い訳しない!ごまかすんじゃないの!!」 

 もう言い訳はしないって、先輩に約束しました。 

 だから僕は、自分をごまかしてはいけませんよね。 

 

 先輩。 

 僕は、先輩が好きです。 

 すごく好きです。 

 母や姉のようにではなく。 

 アイドルや、同年代の女友達のようにでもなく。 

 心の底から信頼しています。 

 ずっと、傍にいたいです。 

 先輩が僕を好きだからではありません。 

 僕が、先輩を好きなんです。 

 もしも、先輩が僕のことを、何とも思っていなくて、僕がいなくなったら、すぐに僕のことを忘れてしまったとしても、僕はやっぱり、先輩のことが好きだ。 

 先輩がもっと年下で、ご主人と結婚する前に僕と出会っていたら・・・とは思いません。 

 僕は、今の先輩が好きだ。 

 先輩に出会うために、僕はこの会社に就職したのだと思うのです。 

 それどころか、先輩に出会うために、僕は生まれてきたのではないかとさえ、今では思います。 

 

 僕は、先輩を、ほんとうに、愛しています。 

 

 ああ。 

 やっと言えた。 

 これが、僕の、本心です。 

 

 僕は、自分の気持ちをどうしたらいいのか、考えました。 

 僕の愛は、世間でよくある恋愛関係や不倫では、解決しそうにありません。 

 

 それに、僕が海外に赴任すれば、先輩とは離れ離れになります。 

 それは、しかたがないことです。海外勤務での仕事には、やりがいも興味もあります。 

 ネットもメールもあるから、いつでもつながっていられます。だけど、僕には先輩が見えなくなるし、先輩にも僕が見えなくなります。 

 それより。 

 僕は、先輩の隣にある、空になった僕の席に、別の新人がやってきて、座るところを想像すると、内臓がギュッと締め付けられるような気がするのです。 

 たとえそれが女性でもです。 

 先輩が隣の机の資料を覗き込んで、それはね・・・と説明する、声を聞くのが僕ではないんだと思うと、たまらないんです。 

 先輩が僕を忘れてしまっても我慢できます。でも、ほかの新人に夢中になって何かを教えている姿を想像すると、大声で叫びたくなるんです。 

 僕以外の人が、先輩から「ありがとう、いいね!」って言われるのはゆるせない! 

 そうか。これが、嫉妬というヤツですね。 

 こんなことを考えている自分に幻滅だし、恥ずかしいです。 

 仕事に、こんな私情を持ち込んではいけないですよね。 

 先輩にばれたら、「子どもじゃないんだから」と叱られますね。 

 でも、この気持ちはどうしようもありません。 

 

 それに、最近、先輩は僕に以前ほど、いろいろ教えてくれなくなりました。 

 もちろん、僕が尋ねれば、いつでも答えてくれます。 

 でも、以前のように、こうしてみたら?ああしてみたら?と、僕の様子を観察していて、失敗する前にアドバイスしてくれるようなことは、すっかりなくなってしまいました。 

 先輩は、僕を手放す準備をしている。 

 僕は、たったそれだけで、さみしくて、しかたがないのです。 

 

 だから・・・