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はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!

10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4

16 先輩への手紙 5

17 先輩への手紙 6


18 先輩への手紙 7

19 先輩への手紙 8

あとがき

 先輩。 

 僕はこの手紙を先輩に、送らないのではなくて、送ることができないのです。 

 これから書くことは、僕の胸の中だけにしまっておきたいからです。 

 あら、勘違いよ、なに勝手なことを考えているの? 

 先輩は、きっとそう言うに違いありません。 

 分かっています。 

 先輩は、どっちにしろ、そう答えるしかない。 

 分かっていても、聞きたくありません。 

 でも、そっと、ここに書くだけなら、そうして、先輩の見慣れた笑顔を思い出すだけなら、きっとゆるしてもらえると思う。 

 

 先輩。 

 先輩はもしかして、僕のことが、好きなのではないでしょうか。 

 手のかかる部下としてではなくて。 

 時々、そんな気がしてしかたがなかった。 

 何気なく僕を見ているときの眼差し。 

 書類を渡すときに触れる手の温度。 

 3センチだけ先輩よりも背が高い僕と、並んで歩くときの横顔。 

 僕の勘違いを「かわいいなぁ〜!」と笑う声。 

 僕が女の子と話しているのを見ているときの、ちょっときつい視線。 

 もしかしたら、僕は先輩に愛されているのではないかと、ちらりと、心の中で考えてみるだけで、僕は、体中があたたかくなって、胸がドキドキしていました。 

 あんなにすごい女性から、特別に愛されているなんて、まるで、シンデレラみたいだ!あれ?この例えは変かな? 

 先輩は誰にでも優しい。 

 だから僕にも優しい。 

 それは分かっています。 

 でも、それだけ、だったのでしょうか。 

 僕の勘違いでしょうか。 

 先輩にとって、僕は、なんだかちょっと特別なのだ、そう思っていいかな?と、そんな気がしていたんです。 

 

 僕は、勝ち目のない勝負がきらいです。 

 だからいままで付き合った女の子も、僕のことを好きだと先に言ってくれた人ばかりです。 

 どう思ってくれているのか分からない相手に、「僕を好きですか?」なんて、聞くことはできません。 

 

 だけど、何度も、先輩に「僕を好きなんですか?」と聞くところを想像しました。 

 そうしたら、先輩はなんて答えるのかな?って。 

 「大好きに決まっているでしょう?」 

 そういわれたら・・・って。 

 

 でも、先輩にはご主人がいます。 

 僕が先輩を幸せにできるとか、ご主人から奪い取ろうとか、そんなことは考えられもしません。 

 だから、もしも、先輩に「僕を好きですか?」と尋ねて、先輩が「好きよ」と答えてくれたら、僕は、嬉しいのかどうしたらいいのか、きっと分からなくなってしまいます。 

 先輩は、僕の考えていることなんか、きっと全部お見通しです。 

 先輩は、いつだって、僕を困らせない。 

 だから、本当に勘違いでも、本当は好きでいてくれても、「あら、勘違いよ、なに勝手なことを考えているの?」と笑うに違いないのです。 

 あの、曖昧な笑顔で、僕を惑わすに決まってる。 

 わかってるんだ。 

 

 だから僕は、わざと、先輩を女性として見ていないかのように振る舞ってきました。 

 先輩が特別に優しいと感じても、気付かないふりをしました。 

 でも。 

 

 自信があるわけではないのです。 

 やっぱり、僕の勘違いかもしれない。 

 本当に勘違いかも。 

 

 ・・・・・・ああ。ぐずぐずと、僕は、いったい、何を考えているのだろう。