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はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!


10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4

16 先輩への手紙 5

17 先輩への手紙 6

18 先輩への手紙 7

19 先輩への手紙 8

あとがき

 ねぇ、私たちのハッピーエンドって、どんなのかしら? 

 頬杖をついた友人がつぶやきます。 

 レストランの大きなガラス窓の外には、歩道を縁取るクリスマスイルミネーションがまだ輝いています。多分、このままお正月まで輝き続けるのでしょう。 

 氷点下の寒さを口実に、腕を組んでぴったりと寄り添った恋人たちが、顔だけは常夏のように微笑みながら通り過ぎていきます。 

 恋に悩む友人でなくても、ちょっとため息が出る光景です。 

 天然ボケの部下さんとのことね。 

 ええ。ハッピーエンドがあるなら、だけどね。知りたいわ。 

 ポジティブを絵に描いたような友人が、すっかり弱気になってしまいました。 

 またひとつ、肩まで揺らしてため息をついた彼女は、この3ヶ月、彼ゆえに、心をも揺らし続けてきたのでした。 

 9月に、彼の海外支店勤務が決まったのです。 

 あれほど経験がない、知識がない、常識がないと友人に嘆かれていた部下さんです。彼一人の力で、海外支店勤務に向けての内部試験になど、通るとは考えにくい。 

 それでも、チャレンジしたいのだという部下の熱い願いに応え、友人は一生懸命に内部試験の準備を手伝いました。 

 人材育成が得意な友人にとって、この手の応援は手馴れたものでした。乞われるままに、それは熱心に教えていきました。 

 内部試験は、相当な難しさでした。けれども、彼はそれを通過しました。驚くことに、友人が予測した試験問題が、そのままいくつも出てきたのです。丸暗記したヤマが当たったようなものでした。 

 彼は欣喜雀躍。彼女は憔悴狼狽。 

 彼女にはわかっていたのです。彼が、彼自身の実力でこの試験に通ったわけではないことを。彼女がいなければ、彼が海外支店勤務になることなど、なかったのではないかと、思えてならないのです。 

 さらに、彼とできるだけ長く一緒に仕事をしたいと思うようになっていた彼女は、自身がしたことによって、彼を早くに手放す結果を招いたことにも、大きな痛手を受けていました。 

 なんてこと・・・。彼女は呆然としました。 

 来年の4月に、彼は遠くへ行ってしまいます。 

 残された時間は、わずかです。