ホーム



はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!

10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4


16 先輩への手紙 5

17 先輩への手紙 6

18 先輩への手紙 7

19 先輩への手紙 8

あとがき

 海外勤務の内部試験に合格したと分かったとき、僕は少しもうれしくありませんでした。 

 不安でいっぱいになりました。 

 こんな試験、受けなければよかったと思いました。 

 先輩に報告したとき、先輩が泣きそうな顔をしているのを見て、もっと不安になりました。 

 僕はホントに頼りない存在なんですね。 

 でも、そのとおりだと思います。 

 先輩が僕より先にシャキッとして、大丈夫、赴任するまでにしっかり準備をしようね、と言ってくれた時でも、僕はそれしかないと思いながら、まだ不安でした。 

 くやしいけど、不安でいっぱいでした。 

 

 先輩はすごいです。 

 何でも知っていて、何でもできる気がします。 

 僕にはわからない未来のことや人の気持ちまで、何でもお見通しだと思ったことがたくさんありました。 

 そうかと思うと、意外なことを知らない。知らないとわかると、すごくくやしがる。 

 怒ったり、笑ったり、ぐったりしていたり、すごく元気だったり。ものすごく大人に見える日もあるし、子どもみたいにわがままな日もある。 

 初めのうちは、どれが本当の先輩かよくわかりませんでした。 

 でも、今ならわかりますよ。どれも全部先輩だ。 

 そうして僕は、いつの間にか、僕が先輩の傍にいるのは当たり前だと思うようになっていました。 

 周りの人たちに、仲がいいよね、いつも一緒だねと言われても、照れる気持ちにもなりませんでした。だって、僕たち実際仲がいいですよね。 

 僕は、先輩のことを友達に話すのが、ちょっと自慢でした。 

 

 先輩は僕が敬語を使うと、年上だと毎回確認されているみたいだからいやだと、いつも言うけれど、僕は先輩が何歳かだなんて、もうぜんぜん考えなくなっています。 

 だけど、先輩にご主人がいることだけは、忘れるわけにはいきません。 

 先輩の家庭は、ものすごく不思議で、普段、先輩は一人暮らしをしているんじゃないかと思うんです。 

 独身だって思う。 

 だけど、先輩の話の中にご主人のことが出てくると、ドキッとします。 

 仲がよさそうで、そうでもなさそうで。 

 もっと聞きたいような、もう聞きたくないような。 

 こっそり、白状します。 

 ほんとは、先輩がご主人のことを自慢そうにほめるのは、聞きたくありませんでした。 

 先輩にほめられるのは、自分だけでいいって、思ってました。 

 だから、先輩がご主人の話をしている最中に、用事を思い出したふりをして逃げ出したことが、何度もあったんです。 

 ご主人だけではありません。 

 僕は先輩が僕以外の人をほめるのが、ほんとうは、いつもくやしかった。 

 先輩にほめられるのは、僕だけでいたかったんです。