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はじめに

1 惚れてしまえ!

2 ちらりと

3 光源氏計画

4 本当に惚れちゃった

5 惚れさせてしまえ!

6 あこがれ、依存、自立

7 手放すことを前提に

8 夫は友達

9 彼がいなくなる!

10 だけどね・・・

11 ママはひとりで十分

12 先輩への手紙 1

13 先輩への手紙 2

14 先輩への手紙 3

15 先輩への手紙 4

16 先輩への手紙 5

17 先輩への手紙 6

18 先輩への手紙 7

19 先輩への手紙 8


あとがき

 先輩。 

 先月、僕は決心して、人事に行きました。 

 驚くでしょうが、僕は海外赴任を辞退しました。 

 行きたい人はたくさんいます。理由はなんだとずいぶん尋ねられましたが、結局辞退を認めてもらうことができました。 

 僕はもっと仕事を覚えて、実力をつけてから行きたいと言いました。 

 心から、そう思っています。 

 人事は、試験には受かっているのだから、準備は行ってからでも十分なだけの実力があるということだと、繰り返し言っていました。 

 でも僕はもう知っています。その実力は、僕のものではなく、先輩のものです。 

 

 海外勤務は、本当に実力がついたら、またチャレンジします。 

 海外支店は逃げませんから! 

 それより、今の僕は、運命としか思えない先輩との出会いを、大切にしたいのです。 

 

 会社の中の情報には何でも通じている先輩が、いまだにこのことを知らずにいるのは不思議です。 

 僕は海外勤務をこんな時期になって辞退したペナルティーとして、支店へ異動することになりました。 

 やっぱり僕は、先輩の隣に座っていることはできませんでした。 

 でも、僕が今度勤務する支店は、先輩も以前勤めたことがある、あの支店です。 

 僕は、先輩がかつて歩いた廊下を歩き、先輩がかつて会議した部屋で会議をするのだと思うと、それだけで、幸せな気分になれます。 

 きっと、あの支店で目を凝らせば、今の僕と同じくらいの歳だった先輩が、夢中になって働いていた痕跡が、あちこちに残っているだろうと思います。 

 そんな場所にいられるのは、幸せなことです。 

 何より、先輩はきっと、あの支店のことを、いまでもよく知っているはず。 

 これからも、いろいろと教えてもらえるでしょう。 

 そうして僕は、先輩の隣を離れて、もっともっとしっかりして、先輩に頼りにされる男になりたいと思います。 

 

 最後に。 

 僕はもうひとつ、決心しました。 

 これから、先輩に、このことを話しに行きます。 

 

 「僕は海外には行きません。あの支店に異動するんです。 

 あそこに通うなら、先輩が住んでいる街がすごく便利です。 

 僕は、先輩の街に引っ越すことに決めました。 

 先輩の家のすぐそばに、部屋を借ります。 

 それなら、職場が違っていても、いつでも会えるでしょう? 

 先輩が寂しいときには、僕が会いに行きます。 

 ひとりでご飯を食べる夜は、僕を呼んでいいですよ。 

 


 いつか、僕もまた恋をしたり、失恋したりするかもしれません。
 

 結婚するかもしれません。 

 それで、おくさんとケンカするかもしれません。 

 子どもができて、子育てに苦労するかもしれません。 

 そんなときには、どうしましょうって相談して、先輩を笑わせてあげます。 

 そうして、いつか、先輩がおばあちゃんになったら、一緒にお茶を飲んであげます。 

 お花見も、ゲートボールも、付き合ってあげます。 

 誰も面倒見てくれる人がいなくなっちゃったら、しょうがないから僕が面倒みてあげます。 

 大丈夫ですよ〜。安心していてくださいね〜。 

 僕は、今までお世話になったお礼に、先輩をず〜っと、見捨てませんから。 

 だから、これからも、どうぞよろしくお願いします!」 

 

 これが、僕の、精一杯の告白です。 

 

 先輩はきっと、あの、困惑したときの無表情になって、それから、僕の大好きなあの笑顔と笑い声で、こう言うでしょう。 

 

 「何をわけの分からないこと言っているの? 

 せっかくのチャンスを勝手に断るなんて!! 

 くだらない相談はいくらでもするくせに、どうしてそんな大事なこと、先に相談しないの!? 

 まったく、ばかな子ね!! 

 だいたい何を勘違いしているの? 

 身の程知らずに、私の面倒を見るですって? 

 面倒みられるのは、いつだって、あなたの方でしょう!! 

 私を見捨てないですって!? 

 私に見捨てられたら困るのは、あなたの方じゃないの!! 

 まったく、どこまでもトンチンカンなんだから!! 

 

 でも。 

 

 かわいいなぁ〜!」