ホーム





はじめに

1 イライラ合戦

2 まず一歩

3 もう我慢できないっ!

4 こんな会社辞めてやる

5 自分の心にもぐりこめ!

6 本心を語ろう

7 出会えた喜び

8 繰り返される人間関係

9 必要だったから

10 はるかさんの自己受容

11 シンクロニシティは突然に

12 やよいさんの自己受容

13 ますみさんの生き方

14 再スタート

15 決意を行動に

16 それぞれの人生

おわりに

いいんだ!

  ますみさんの生き方

 2週間ぶりに通勤電車に揺られながら、やよいさんはちょっと緊張しつつ、夕べますみさんが言ったことを思い返していました。

 やよいさんが「ますみちゃんって、けっこう感情の起伏が激しいよね。」と言ったとき、ますみさんはこう答えました。

 「私の状況(眼が見えにくいこと)って、いくらでも落ち込んでいられるのね。これ、生まれつきでなくって、小学生の終わりごろに病気で見えなくなったわけ。最初から見えないのも辛いと思うけど、途中からっていうのも辛いのよ〜。親を恨んだり、病気を恨んだり、運命を恨んだり、いくらでもできるの。

 それまで通っていた小学校から盲学校へ進んで、外に出るのも怖いのに、いろいろ覚えさせられて、ほんっと、嫌だった。何にもできないんだよ、ご飯も、トイレもお風呂も階段も着替えも、みんな手伝ってもらうの。手伝うの面倒だろうなって思ってさ。自分なんか、なんで生きているのか、人に面倒かけて、何にもできることなくって、生きている意味なんかないって思っていたのよ。

 ほんと、死にたかった。でも、刃物も薬もさがせないわけ。自殺もできないってこと。情けなくて、泣くしかなくて、でも、泣いても何も変わらないのよ。

 それがね。
 盲学校でいろいろ教わっているうちに、少しずつ、自分でできることが増えたの。

 普通の小学校ってさ、一度教わったら、わかろうとどうだろうと、授業は先に進むでしょう?だから、教わるほうが追いつこうって一生懸命になるよね。

 盲学校はね、違ったの。私がわかるまで、できるまで、いくらでも繰り返し教えてくれるの。

 1度や2度ではできないことでも、100回やったらできることってあるでしょう?

 当然、なかなかできなくて、イライラするのよ。腹も立つし、やめたくなる。そんな時にね、先生がいうの。「あなたはまだ目が見えない人年齢1歳よ。1歳の子が自分でトイレに行ったりおしり拭いたりしないでしょ。おしめが濡れたよビエ〜ッて泣くだけでしょ。だからあなたは怒って泣いていればいいのよ。」って。

 何度もそう言われているうちにね、あれって思ったときがあったの。

 眼が見えているときは、泣いちゃダメ、遅れちゃダメ、努力しなきゃダメっていつも言われて、頑張ってたのに、眼が見えなくなって、私ものすごく自由じゃないって。だって、中学生になって、怒って泣いてていいよなんて、言われたことある人いないと思わない?

 学校も、私のペースで進むのよ。どうしてもやりたくなぃってだだをこねると、じゃぁ、他の事しようかって先生が譲ってくれるの。こんな生活している中学生いないな〜って。なんかこう、悪くないところもあるかなって。

 そうしたら、なんか楽になってね。っていうか、わがまま言って反省しなくなったってことかもしれないけど。

 でもね。自分が人に面倒をかけて、生きている価値がないって思っていたことは変わらなくて。高等部に上がってからだけど、先生になんとなく聞いてみたの。

 そうしたら、先生がね、「あなた、すごく役に立っているのよ」って言うの。信じられなくて、また慰めようとしているんだろうくらいに思ってね。だけど、違った。

 「先生があなたに何かを教えるでしょう?一生懸命教えるでしょう?そうするとね、いつかあなたはできるようになるでしょう。何かができるようになったとき、あなたは本当にうれしそうな笑顔をするのよ。あなたのその笑顔を見るとね、先生も本当にうれしくなるの。うれしくてうれしくて、あなたのお父さんやお母さんに報告するのよ。そうするとね、あなたのご両親も、本当にうれしそうに笑うのよ。それでね、ありがとう先生、私たちも元気が出ましたっておっしゃるの。

 誰かを笑顔にしたり、元気にしたりできるって、人の役に立っているってことよね。だとしたら、あなたは私の役にたって、ご両親の役にたっているのよ。この先、あなたが喜ばせられる人の数はきっともっと増えるのでしょうね。」


 私ね、その時から、頑張ろうって思った。

 見えなくなったことを恨んで一生生きることもできるし、いろいろ一人でできるようになったときに刃物見つけて自殺することもできた。でも、私はそのどっちも選ばないことにしたの。

 こんな私でも、誰かを喜ばせることができるなら、ひとりでもいいから、喜んでくれる人を増やしたい。そう思ったのよ。

 その先生たちとは今でも時々会うんだけど、私が愚痴ったり怒ったりしても、いまだに言ってくれるんだよ。「あなたは怒りっぱなしじゃない人生をちゃんと歩けているんだから、安心して、怒りたい時は好きなだけ怒って泣いていればいいのよ。怒ったり泣いたりしている時を知っている分だけ、あなたが笑顔になった時は格別に思えるのよね。」って。

 今思えば、あれって先生たちの策略だった気もするんだけどね。

 そんなわけで、私、感情が揺れ動くことを、世間の人たちほど「よくないことだ」って思っていないみたい。

 まぁ、時々怒っても誰か嫌いになっても、人生トータルで考えたら、大した実害はないってことよ。」

 実害かぁ。
 やよいさんは深呼吸しました。もうすぐ電車が停まります。そうしたらやよいさんは電車を降りて、会社に向かって歩き始めます。

 実害のないものにいつまでもこだわってきた私は、占いでいつも出てきた「神経質」そのものだったのかも。

 さぁ、違うやりかたで、今日一日を過ごしてみよう!

 背筋をちょっと伸ばしたやよいさんは、微笑を浮かべて電車を降りていきました。