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はじめに

1 イライラ合戦

2 まず一歩

3 もう我慢できないっ!

4 こんな会社辞めてやる

5 自分の心にもぐりこめ!

6 本心を語ろう

7 出会えた喜び

8 繰り返される人間関係

9 必要だったから

10 はるかさんの自己受容

11 シンクロニシティは突然に

12 やよいさんの自己受容

13 ますみさんの生き方

14 再スタート

15 決意を行動に

16 それぞれの人生

おわりに

いいんだ!

  やよいさんの自己受容

 図書館で偶然の出会いをしたやよいさんとますみさんは、すっかり意気投合しました。翌日も仕事がお休みのやよいさんに「明日も会えない?」ともちかけたのはますみさんでした。仕事がひけたあと行くからと、待ち合わせで有名な場所の名前をあげて、「ここで待ってて!」とうれしそうに言います。

 もちろんOKして、ますみさんお勧めの本を2冊借りて、やよいさんは帰宅しました。帰ってしばらく時間がたつまで、ずっと不思議な感覚が続いていました。

 今日のアレはなんだったのだろう?今日会ったばかりのますみちゃんと、どうしてあんなに息が合ってしまったのかしら?それより、あの静かに静かにドキドキワクワクしたアレ、アレはなんだろう?

 借りてきた本の内容よりもそのことが気になって、次の日の待ち合わせを思うとまたワクワクしてきて、やよいさんは読書もせずにますみさんのことを考えていました。

 待ち合わせ場所に先についたやよいさんは、昨日打ち合わせた通り、駅の階段を上がった最後の一段の右端に立ちました。こうしておけば、見えにくいますみさんも迷わず来れるというのです。

 ますみちゃん、こんな人ごみに来たことあるんだなぁ。面倒だと言っていたけど。

 ぼんやりしていたやよいさんの前に、ますみさんが立ちました。「やよいちゃん?」「そうよ。」

 いきなり、ますみさんが、うわ〜ん、と泣き出しました。「わたし、くやしい〜!」

 なんのことやら分からず、やよいさんはビックリするばかりでした。ますみさんは容易に泣きやまず、それも「大泣き」状態で、やよいさんが肩に手をかけるとすがりついてきて、やよいさんに抱きつく格好でわんわん泣いています。

 そこは待ち合わせのメッカ。周囲にいるたくさんの人々が、興味津々でこちらを見ています。隣で待ち合わせたカップルが「ねぇ、あれってレズのもめごと?」とささやきあっているのを耳にして、やよいさんはいたたまれなくなり、

 「ねぇ、ますみちゃん、話聞くから、どこか落ち着くとこ行こうよ。」と誘うと、「スターバックス!」としゃくりあげながら答えます。ますみちゃん、よほどスタバが気に入ったらしい。

 運良く近くに看板が見えたので、連れて行き、空席に座らせてからキャラメルマキアートを2つ買ってもどってくると、ますみさんはようやく少し落ち着いたようで、涙の原因を話し始めました。

 要は、仕事で同僚に馬鹿にされたというのです。

 聞いてみると、ますみさんの職場はやよいさんの知っている「職場」というのと少し違っているようでした。なかなか飲み込めなくて、何度も質問しなくてはなりませんでした。

 職場環境がようやく飲み込めても、ますみさんが「馬鹿にされた」という内容が、本当に馬鹿にしたのかどうか、やよいさんにはよくわかりませんでした。これも、何度も質問をくりかえして、ますみさんが何をどう悔しがっているのか、一生懸命聞かなくては理解できませんでした。

 あっちのほうがバカ女のくせに、だいだい人間ができてないのよと、ますみさんは悪態の限りを尽くしつつ、やよいさんに気持ちをぶつけました。

 やよいさんは、心底困ってしまいました。

 もともと、やよいさんは目の前に問題があれば解き、課題があれば解決するのが生きがいみたいにして生きてきました。だから、何かますみさんの気が晴れるような解決策を言ってあげたいと思いました。けれど、職場環境もますみさんの怒りも、やよいさんの知識の範囲を超えていて、なんと言ったら慰めになるのか、見当もつかないのです。

 「ねぇ、ますみちゃん、今夜はますみちゃんが食べたいもの何でも食べられるお店探すから、お願い、機嫌直してよ〜」

 私ったら、どうしてこんな気の利かないこと言っているのかしら?と思いつつ、でも気が利いているかどうかなんて関係ありませんでした。ただもう、ますみさんに元気を取り戻してほしくて、笑ってほしくて、それだけでした。

 昨日もこんな気持ちだったな。

 するとどうでしょう。ますみさんは大きく頷いて、こういうではありませんか。

 「もう、やよいちゃんが話わからないから何度もしゃべっているうちに、昼間の出来事がどうでもいい気がしてきちゃったわよ。あ〜、泣いてしゃべって怒ってスッキリした〜!お腹すいちゃったわ。ホントに食べたいもののお店探してくれるの?私、前から行ってみたかったところがあるんだけど・・・」

 やよいさんはすぐに、そのお店に行く!と約束してしまいました。すっかりカラになったカップを片付けて、二人は腕を組んで、入ってきたときとは別人のような足取りで夜の街に出て行きました。

 ますみさんがさりげなくテーブルに指を這わせながらお皿の位置を確認し、美しいマナーで食事をする姿に、やよいさんはホレボレしました。ますみさんが尋ねるので、それぞれの料理の色や盛り付け、器の柄やお店の雰囲気をどんどん話して聞かせました。

 先ほどとはうってかわって、今度はますみさんがやよいさんについての質問を連発します。どんな仕事をしているの?、いままででいちばん大きな成功は?彼氏はいるの?犬は飼っている?それから、それから・・・

 帰宅してから、やよいさんは考えました。

 ますみさんはすぐ怒るし泣くし、欠点がいっぱいある。でも、ステキな人だ。
 彼女の欠点は、少しも彼女を損なわない。


 考えてみれば、この世に欠点のない人なんていないんだ。
 だったら、私にだって欠点があってもいいじゃない。


 私は人より優位に立とうとしすぎるあまり、いろいろな災厄を自ら招き寄せてきていた。だから、「優位に立ちたい」という気持ちは弱めたほうがいい。

 けれど、完全になくさなくてもいいに違いない。
 だって、「優位に立ちたい」という気持ちがあったから、これまでいろいろなことに挑戦できたし、覚えてきた。この気持ちは私の大事な原動力のひとつ。


 そうだ、イライラも同じ。
 イライラするのは嫌だから、できるだけ短い時間にしたほうがいい。
 でも、完全にイライラをなくそうなんて考えなくてもいいに違いない。はるかさんにイライラしなかったら、私は今日、こんなことを考えていなかったのだもの。


 個性が大事って言うけれど、これが個性よね。
 その人が何にどのような反応をするかが個性なら、個性はその人の状況や育ってきた環境やいろいろな人生の紆余曲折で決まってきたもの。その反応のどれかを完全否定するってことは、その人の人生もまた否定することになるじゃないかしら。


 やよいさんは、自分のちょっと行き過ぎたところに気がついたときには、それを弱めていこうとすることに決めました。さしあたり、物事を優劣でとらえ、劣っていると証明してみせたくなる性質は弱めた方がよさそうです。

 
それからもうひとつ、自分が感じたことは何でも自分の一部だから、大事にしようと決めました。怒りや焦り、恨みや嫉妬も、喜びや楽しみと同じようにちゃんと感じて、表現してみよう。ちょっと、こわいけど。

 
明日から、やよいさんはまた出勤です。