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はじめに

1 イライラ合戦

2 まず一歩

3 もう我慢できないっ!

4 こんな会社辞めてやる

5 自分の心にもぐりこめ!

6 本心を語ろう

7 出会えた喜び

8 繰り返される人間関係

9 必要だったから

10 はるかさんの自己受容

11 シンクロニシティは突然に

12 やよいさんの自己受容

13 ますみさんの生き方

14 再スタート

15 決意を行動に

16 それぞれの人生

おわりに

いいんだ!

  シンクロニシティは突然に

 やよいさんは、繰り返される苦痛な人間関係を断ち切ろうと決意を固めたわけですが、それからどうしたらいいのかわからなくなってきました。

 自分には意地悪なところがあって、その意地悪な気持ちの原因が、自分の優位を証明しようとして、誰かを「劣った人だ」と明らかにするためだったということは理解しました。

 けれども、どうすればその原因が取り除けるのか、そもそも取り除くのがよいのかどうか、取り除いたとしてその後はどのように生きていけばいいのか、なんだかわからなくなって混乱してしまったのです。

 いろいろなことに気付いたけれど、自分の考えてきたことは的外れではないのだろうか?何か間違ってはいないだろうか?幼稚で、すでに誤りだと証明された発想ではないだろうか?そんなふうにも感じ始めました。

 ふと、図書館に行ってみようと思い立ちました。もしかしたら、何か役に立つ本があるかもしれません。

 後で考えれば、なぜ本屋でなく図書館に行こうと思ったのか不思議でしたが、とにかく翌日、近くの図書館へ行ってみることにしました。

 近くといっても、やよいさんは最近できたこの図書館に行くのは初めてでした。入り口はこっちだろうか?とキョロキョロみまわしていたとき、後から来た人とぶつかってしまいました。

 おもいのほかあっけなく倒れこんだその女性は、鞄を取り落としてしまい、中身がすこしこぼれてしまいました。

 「いた〜い!もう、なんなのよ!」

 当然彼女は腹を立てているようですが、鞄を拾おうとするようでもなく、座り込んだままでした。

 おかしな人だな、と感じつつも、あわてて謝りながら、やよいさんは、あ、と気付きました。その女性は目が見えない様子だったのです。

 さらに慌てて、やよいさんは彼女の鞄をひろい、こぼれてしまった中身をひろって戻し、彼女に手渡しました。彼女はまだ怒っています。

 やよいさんは彼女の手をそっと取って、「立てますか?ケガはないですか?」と恐る恐る聞いてみました。

 「アッタマきちゃったけど、立てるみたいよ。」

 彼女はそういうと立ち上がり、スカートの裾を適当に払ってみせました。やよいさんは目につく埃をはらってあげてから、もう一度お詫びをしました。

 「もう、いろんな人が歩いているんだから、気をつけてよね。」

 というと、彼女は急に笑顔になって、こんなことを言い出しました。

 「実はこの図書館に来るのは初めてで、ちょっと疲れてしまったので、喫茶室か何かをみつけて休憩したかったのだけど、よかったら案内してくださいませんか?」

 やよいさんは二つ返事で引き受けました。通りの向こうにスターバックスの看板が見えます。図書館に喫茶室があるかどうか探すより、向こうのほうが早そうです。それでいいですか?と尋ねると、彼女はうれしそうにOKと言います。

 そっと手を差し出した彼女に、自分の腕を持ってもらい、やよいさんは歩き始めました。胸がワクワクします。ドキドキします。さっき渡った横断歩道を渡り返すだけの話なのに、やよいさんは夢中になりました。

 スターバックスについて、やよいさんは彼女に頼まれるままにメニューを読みました。彼女はそれ以上の手助けを必要とせず、支払いをすませ、キャラメルマキアートを受け取りました。自分の注文も受け取ったやよいさんは、彼女を空席に案内し、なんだか二人でお茶をすることになりました。

 「わたし、ますみといいます。」
 彼女は、やよいさんより2つ年上で、会社員とのことでした。その日は休暇で、なぜか今日はいつもの図書館ではなく、新しくできたこちらの図書館に行ってみようと思い立ったとのことでした。

 「これ、おいしいわね!一度来てみたかったんだけど、混雑していると面倒だし、つい、避けちゃって。全然見えないわけではないんだけどね、やっぱり人ごみは面倒で・・・。あなたのおかげで、すっごく楽しいわ!ありがとう!」

 やよいさんはなんと表現してよいのかわからない感情が胸の内に沸き起こってきて、からだがほてってくるような感覚を味わっていました。

 自分の名前を告げ、先ほどのことをもう一度お詫びしました。そして自分も会社員で、悩み事があって2週間の休暇をとっていること、今日は自分に役立つ本がないかと初めてこの図書館にきたことなどを話しました。

 ますみさんは、やよいさんの話をじっと聞くと、「どんな本を探しているの?」と聞きます。

 これもまた、後で考えれば不思議でしたが、そのときやよいさんは何の隠し立てをする必要も、遠慮の気持ちも感じなくて、このところ自分に起きたできごとを素直にますみさんに話してしまいました。聞こえにくい人とのトラブルを、見えにくい人に話すなんて、「そんなことできない!」と心のブレーキがかかったはずなのに・・・

 またもや、じっとやよいさんの話をきいてくれたますみさんは、それならこんな本が役立つかもしれないと、何冊かの本の名前を教えてくれました。やよいさんが内心、「こんなふうに見えにくい人がどうしてそんなに本に詳しいのかな?」と驚いていると、ますみさんはクスクス笑い出して、

 「どうして本が読めるの?って思ったでしょう。いいのよ、不思議でしょうね。私には朗読ボランティアをしてくれる人が何人かいてね、その人たちが本を読み上げてくれるのよ。だから私、意外と読書家なんだから!」

 一緒に本を探してくれるというますみさんにもう一度腕を貸し、二人は図書館へ戻ることにしました。そのころには、ますみちゃん・やよいちゃん、と呼び合う仲になっていました。

 図書館に入ると、ますみさんは慣れた様子でカウンターに向かいます。

 「点字本、大活字本の棚はどこですか?」

 とますみさんが尋ねると、司書さんが当然の様子で「ご案内しましょう。」と席を立ちます。その様子を見て、つい、やよいさんは一歩前に進み出て、

 「私が案内しますので、場所だけ教えてください!」と言ってしまっていました。

 自分で自分に驚きながら、司書さんに教わったほうへ、ますみさんを案内しました。

 朗読ボランティア、点字本、大活字本、どれもやよいさんには聞きなれない言葉でした。それに興味がわいたといえばそうでした。

 でも、その時のやよいさんは、ただもう、ますみさんに今日の図書館訪問を楽しんでほしい、ますみさん一人でも楽しめるのはわかるけど、私が一緒にいることで楽しみが増すなら、どうかその楽しみが増しに増しますように!と、祈るような気持ちでいっぱいになっていたのです。

 ますみさんは、大きな図書館の隅にまとめられたその棚をさっと確認しただけで、「今度はやよいちゃんの本を探そう」と言って、当たり前のようにやよいさんの腕をとりました。

 ふたりは、本棚の立ち並ぶ図書館の中央へと、足を運んでいきました。